就職氷河期世代と非正規雇用の現状
日本は、経済の変化や社会的要因により、特に1990年代半ばから2000年代初頭にかけて就職活動を試みた「就職氷河期世代」の問題に直面しています。この世代は、41歳から55歳の中高年層にあたりますが、その多くが新卒時に正社員として就職することができず、非正規雇用に甘んじているのが実情です。特に1999年から2003年卒の大学生は、新卒就職率が6割を下回り、初職から非正規のまま過ごす場合が多く、正規雇用への移行が難しい状況です。これが今後の少子化や労働力不足と相まって、大きな負担を社会にもたらすことが懸念されています。
女性の労働参加と社会的課題
さらに、少子化の進行や経済的な理由から、女性の労働参加がますます重要なテーマとなっています。森詩恵教授は、これまで支援の手が届かなかった「非正規のシングル女性」に焦点を当て、この群体への支援体制の強化を目指しています。
女性の労働市場参加が求められる一方で、非正規雇用の女性は正規雇用の女性と比較して所得水準が低いという現実があります。このような状況を打破するためには、社会保障制度や働き方改革が不可欠であり、特に「同一労働同一賃金」の原則を実現することが急務です。
2040年問題と非正規雇用の壁
2040年には、団塊ジュニア世代が高齢期を迎え、労働力不足が一層顕著になります。政府はこの問題に対処するため、全世代型社会保障の整備を進めていますが、就職氷河期世代の非正規労働者が高齢化することによって、税・社会保障財政が圧迫される懸念があります。女性の労働参加は日本全体の社会的な必須課題であり、雇用の形態や性別役割分業から脱却することが求められています。
忘れられたシングル女性たち
特に、未婚のシングル女性は、親の介護や生活リスクを考慮した場合、生活が困難な状況に置かれることが多いです。子どものいないシングル女性の貧困問題はしばしば見過ごされがちですが、彼女たちにも社会的な支援が不可欠です。森教授の調査によると、非正規雇用のシングル女性の中には「自ら望んで非正規を選択している」という意識が強いことがわかりましたが、これは社会全体の理解不足によるものも大きいのです。
社会保障リテラシー獲得プログラムの開発
森教授は、金融や投資教育だけでなく、社会保障制度に関する基礎知識の習得や、生活リスクへの意識改善を目指した「社会保障リテラシー獲得プログラム」の開発に取り組んでいます。このプログラムでは、非正規シングル女性のニーズに基づき、情報へのアクセスを確保し、支援機関や同じ悩みを持つ人とのつながりを促進します。2025年度からは全国の男女共同参画センターと連携し、プログラムの展開が開始される予定です。
このような取り組みが進む中で、非正規雇用シングル女性の生活状況が改善され、社会全体の理解が深まることを期待しています。未来の日本を築くためには、誰もが安心して暮らせるシステムの構築が必要です。