ピアノ演奏の記憶力向上に向けた新しいアプローチ
楽器演奏やスピーチなど、長大な動作を記憶しようとした際に「思い出せない」という経験は、多くの人が抱える悩みです。この問題に関する新たな研究成果が明らかになりました。一般社団法人NeuroPianoとソニーコンピュータサイエンス研究所の研究チームによれば、この記憶の不安定さを克服するためのトレーニング法が発見されたとのことです。
研究の背景
ピアニストは数万音からなる楽曲を暗譜し、楽譜なしで演奏する必要があります。そのため、膨大な情報は「運動系列」と呼ばれる小さな動作の単位に分けられ、これを記憶することで演奏が可能になります。しかし、運動系列の「境界」、つまり異なる指の運動をつなぐ部分で記憶が不安定になることが知られています。この境界での不安定さは、演奏中のエラーの原因になりますが、具体的な対策はこれまで不明でした。
新たなトレーニング法の発見
研究チームは、ピアノ演奏中に意図的に異なる音を鳴らすシステムを開発し、演奏者の反応から記憶の想起の安定性を評価しました。その結果、演奏の境界部分での記憶の想起が特に不安定であることが示されました。さらに、境界直前では脳波に変化が見られ、記憶を反映した指標が増大することが確認されました。このため、境界をつなぐ練習を実施すると、記憶想起の負荷が軽減されることが明らかになりました。
練習法の具体例
トレーニングでは、個々の短いフレーズをいくつか練習した後、それらをつなげる「橋渡し練習」を行います。この橋渡し練習が有効であり、記憶の想起が安定しやすくなることが期待されています。ピアニストが実際にこの練習を行った結果、音の外乱による影響が減少し、パフォーマンスが向上したと報告されています。
研究の意義と今後の展望
この研究の成果は、ただ繰り返すだけの練習ではなく、記憶の安定性を高めるための新たな指針を示しています。音楽教育や演奏支援の現場において、この知見が活用され、個々の演奏者に合った効率的な練習プログラムが開発されることが期待されています。また、演奏中の不安やパフォーマンスの安定性向上にも寄与する可能性があることから、非常に意義深いといえるでしょう。
この研究成果は、2026年2月20日に国際科学誌「iScience」にて発表される予定です。ぜひ、多くの演奏者がこの新しいアプローチを取り入れて、記憶力を高め、演奏技術を向上させていくことを期待します。