夏木マリが魅せる日本型ブルースの真髄、ブルーノートでの魅惑の夜
音楽が彼女の原点であると断言できる表現者・夏木マリ。映画やテレビ、舞台、声優とさまざまな領域で名を馳せる彼女だが、歌う瞬間には少女のような無邪気さとともに、観客の心に響く「日本型ブルース」の精神を感じさせる。5月15日から17日まで、名門ジャズクラブ、ブルーノート東京で開催されたライヴ「MARI de MODE 8」では、彼女の圧倒的な存在感と音楽の力を体感できた。ここでは、その夜の模様をレポートしよう。
初夏を思わせる心地よい気候の中、週末の夜に集まった観客たち。白と黒のコントラストが美しい、夏木のブラックドレス姿が舞台の中央に立つと「ハロー、ブルーノート!!」とのかけ声と共に、彼女のライヴが始まった。演奏陣には超実力派のミュージシャンたちが揃い、バンドの一員として夏木を支えている。曲の一つ一つが彼女の人生を語り、その深みが聴衆に伝わっていく。
一曲目に選ばれたのは、芸能生活50周年を祝してアレンジされた「東京ブギウギ」だ。この楽曲は、彼女のユニークな音楽観を反映しつつも、ジャジーなアレンジを加えられ、会場の熱気を一気に引き寄せた。続く「お掃除おばちゃん」では、彼女のリズム感と声が絶妙に融合し、観客を一層盛り上げていく。
「8回目で~す。1年経つのは早いわね。」と気さくに語りかける夏木に対し、観衆は歓声を上げた。彼女が歌う「鎮静剤」は、人生の苦難や辛さを受け入れ、それを歌に昇華させた作品で、聴衆の心に共鳴する力強いメッセージを含んでいる。夏木の歌声は、ただの技術の高さだけではなく、彼女がこれまでに経験した数々の喜怒哀楽が表現され、聴く者に深く響くのだ。
続けざまに披露された「Musician」「二の腕」「私は私よ」といった楽曲は、暮らしや人生に根ざした日本型ブルースを聴かせてくれる。曲ごとに、夏木のセリフやMCが会場との一体感を生み、彼女の存在感は一層強く感じられた。特に、彼女が「私は私よ」と語った瞬間、場内は熱気に包まれ、年齢を問わず共感する声があがった。
特に印象的だったのは、「セロニアス・モンク」という楽曲の紹介時。彼女は「人と違う生き方をする彼こそが、魅力を持っている」と語り、その独自なスタイルで歌うことの厳粛さを感じさせた。曲の途中でピアノを演奏しているミュージシャンの隣に移動し、楽しそうに連弾を披露するシーンは、夏木自身が持つ音楽の楽しさを体現している瞬間だった。
さらに、アンコールに応える形で行われた「60 Blues」では、彼女自身の波乱万丈な人生を笑い飛ばしながら歌い上げ、最後には大きな拍手が沸き起こる。ブルーノートの会場には、彼女が過去に着用した華やかな衣装も並び、観客はその独特のセンスと存在感に圧倒されたことでしょう。
74歳を迎えた今でも、夏木マリはロンドンや韓国、さらには多様な舞台で活躍し続けている。ブルーノートでのパフォーマンスは、彼女にとって特別な“儀式”であり、毎年この場で原点を再確認し、次なる高みへ向かう意志を新たにする貴重な時間となっている。音楽の持つ力を再認識できた夜だった。
(ジャーナリスト・文筆家岩崎貴行) (撮影:高橋慎一)