第68回群像新人文学賞受賞作品のご紹介
2023年、待望の第68回群像新人文学賞が発表されました。選考委員による厳選な審査を経て、栄えある受賞作品に輝いたのは、神奈川県出身の綾木朱美さんの「アザミ」と、京都府出身の駒田隼也さんの「鳥の夢の場合」です。この二作品を通じて、それぞれの魅力と著者の背景を探ってみましょう。
受賞作「アザミ」著者・綾木朱美さん
綾木朱美さんは1995年に神奈川県で生まれ、29歳の若き才能です。東京大学大学院総合文化研究科を修了後、現在は会社員として働きながら、文学の世界に挑戦しています。「アザミ」は、彼女が応募時に使ったペンネーム「綾木明美」から改名した作品です。この作品では、日常の中で感じる孤独や恐怖、そしてアイドルの影響を描き出しています。
物語は、新聞の校閲を行いながら、ニュースサイトのコメント欄に没頭する主人公の姿を描写しており、頭痛や沈黙への恐怖が交錯します。そして、主人公のスマートフォンの中で展開されるアイドル「ミカエル楓」の現象が、彼女の心情に色を添えています。アザミの日常は、普通に見えながらも、実は深い心理描写が織り交ぜられた作品に仕上がっています。
受賞作「鳥の夢の場合」著者・駒田隼也さん
駒田隼也さんは1995年生まれで、今は30歳。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)で文芸表現を学び、書店員としての経験を持つ彼の作品「鳥の夢の場合」も注目です。
この作品は、主人公の蓮見が生と死について語るという独自の視点から始まります。「おれ、死んでもうた。やから殺してくれへん?」という衝撃的な言葉から物語は広がり、夢と現実、過去と未来が交錯する中で、主人公の内面的葛藤に迫ります。もともとの感覚を基に、視点が変わることで境界線が溶けていく様子は、読者を引き込む力を持っています。
群像新人文学賞について
「群像」は1946年に創刊された文芸誌で、文学界において非常に大きな位置を占めています。これまでに数多くの作家や評論家を輩出しており、その中には村上春樹や高橋源一郎といった名だたる作家も含まれています。
今回の受賞作は二作品とも、現代の文学と読者との関わりを新たに考えさせる内容となっています。興味深いと同時に、しっかりとした文学的な背景を持つ彼らの作品を手に取ることで、より豊かな読書体験が得られることでしょう。
今後の活動にも注目が集まる二人の作家の作品を、多くの人に知っていただきたいと思います。ぜひ、次号の「群像」もお楽しみに。