世界初のエンペラーペンギン人工授精の成功
和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドで、世界初のエンペラーペンギンの人工授精による有精卵確認が報告されました。この成果は、エンペラーペンギンがいかに希少な種であるかを際立たせています。世界の中でも、エンペラーペンギンはアメリカ、中国、日本の3カ国でしか飼育されていない貴重な動物で、その繁殖には大きな課題が伴います。
2025年の7月から8月にかけて、アドベンチャーワールドではエンペラーペンギンのオスから採取した精子を、4羽のメスに複数回注入。すると、そのうちの3羽が産卵しました。特に2025年8月12日に産まれた卵が有精卵であることが確認され、これにより新たな繁殖可能性が示されました。残念ながら、卵殻に異常があったために孵化には至りませんでしたが、この試みは顕著な成功を収めたことに変わりありません。
繁殖研究の新たなステップ
エンペラーペンギンは、その繁殖の過程で極端な自然環境の中で子育てを行うため、「世界で最も過酷な子育てをする鳥」とも称されています。オスは卵を抱いている間、約2か月間絶食しなければなりません。これは非常にデリケートなプロセスであり、人工授精によって受精卵が確認されたことは、飼育下における遺伝的多様性の保持に向けた一歩となります。
アドベンチャーワールドでは、過去に16羽のエンペラーペンギンの赤ちゃんを育ててきましたが、すべて同じ親から生まれています。血統の偏りがあるため、他の飼育環境との連携を強化し、持続的な繁殖へとつなげるための「ブリーディングローン」を模索中です。国内での遺伝的多様性を維持するため、エンペラーペンギンの人工授精技術が必要不可欠です。
エンペラーペンギンの繁殖の歩み
アドベンチャーワールドは1997年にエンペラーペンギンの繁殖研究を開始し、2004年には日本で初めて赤ちゃんが誕生しました。以来、完全人工育雛を行い、計6羽の赤ちゃんを育てることに成功。それからも様々な方法を模索し、繁殖の技術を確立してきました。2013年には親鳥からの給餌に初めて成功し、その後も初期人工育雛を取り入れるなど、たゆまぬ努力を続けています。
未来に向けた取り組み
現在、国内でエンペラーペンギンを飼育しているのは、アドベンチャーワールドと名古屋港水族館のみです。両施設は共に協力し、種の保存に向けた活動を展開しています。2030年を見据えたSDGsの観点からも、エンペラーペンギンが持続可能な形で未来に受け継がれることが期待されており、そのためには新しい技術と知見の集合が必要です。
アドベンチャーワールドは今後も、エンペラーペンギンの人工授精やブリーディングローンを通じて、貴重な種を守るための活動を続けていきます。この試みは、エンペラーペンギン以外の動物たちの繁殖研究にも波及していくことでしょう。動物たちの命が未来に繋がるよう、努力を重ねていく所存です。