岡山大学講演会 - 遺族の想いを聞く
2025年11月5日、国立大学法人岡山大学の犯罪被害者支援団体「smile(スミレ)」が主催する講演会が開催されました。この講演会には、2019年に発生した京都アニメーション放火殺人事件で命を落とした渡辺美希子さんのご遺族が登壇し、心の内を語りかけました。
遺族の思い - 心の声を届ける
講演の冒頭では、渡辺さんの母・達子さんが登壇し、事件当時の家族の様子や、その後の心の葛藤について振り返りました。達子さんは「被害者遺族だからこう感じるはず、と決めつけないでほしい」と強調し、遺族それぞれが抱く感情の異なりについて述べました。続いて、万が一の際に誰に連絡を希望するか、あらかじめまとめることの重要性にも言及し、準備することで少しでも安心が得られることを訴えました。
また、彼女は「辛い思いをしているのは遺族だけではなく、生存した京都アニメーションの職員やけがを負った方、友人など、多くの人が心に傷を負っている」と述べ、支援の重要性を強調しました。達子さん自身も、京都府警から推薦されたカウンセリングを受けて心が軽くなった経験を明かし、その効果を伝えました。
兄の語り - 自責の念と未来への希望
続いて、渡辺さんの兄・勇さんが登場し、自身もアニメ好きであったことから、妹がアニメの世界に進むことに対し、「自分が好きだったせいで妹が亡くなったのではないか」と自責の念に苛まれた時期を振り返りました。裁判で被告人が「刑務所の環境には感謝している」と発言したことに衝撃を受けたエピソードを交えながら、「裁判付き添い制度があったからこそ、心が壊れずに済んだ」と語りました。
また、最後に勇さんは学生に向け、「周囲の大切な人との関係を大事にし、寄り添い方やタイミングを意識してほしい」と呼びかけました。
Q&A - 学生からの素朴な疑問
質疑応答の時間では、学生から「遺族に弁護士をつけるという発想がなかった」との質問がありました。この質問に対して達子さんは、「被害直後は未来を描くこと自体が難しい。そのため、コーディネーターのような存在が必要だ」と答えました。また、「事件や犯人に対する気持ちの変化」について問われると、彼女は「裁判を通じて、事件前に何かできなかったのかという思いが強くなった」と心境を明かしました。
講演会の意義 - 未来をつなぐ活動
講演会の最後には、犯罪被害者支援団体「smile」の代表である法学部4年の杉本貴一さんが締めくくりの言葉を述べました。彼は「お二人の言葉は、大切な人を失った悲しみと、それを未来につなげようとする強さを感じました。ニュースでは知ることのできない人の思いや命の尊さについて考えさせられました。私たちの団体でも、被害者や加害者を生まない社会を目指して活動を続けていきたい」と話し、講演会を締めました。
この講演会は、遺族の思いを聞き、命の大切さや支援の必要性について再認識する貴重な場となりました。今後もこのような活動を通じて、多くの人々が心の傷を癒やし、未来を見つめることができる社会になればと願います。