小中学校における生成AI活用の実態調査
社会人向けの専門職大学院である社会構想大学院大学と上越教育大学が、生成AIの教育利用に関する実態調査を実施しました。本調査の目的は、GIGAスクール構想のもとで進む情報端末の活用状況を把握し、特にブラウザAI要約の利用実態を詳しく調べることにあります。近年、生成AIは教育分野での支援ツールとして期待されている一方で、誤情報のリスクや批判的思考の低下が懸念されています。さて、調査結果はどのようなものでしたか。
調査の概要
本調査は2025年10月下旬から11月下旬にかけて、関東・近畿・北陸の複数の自治体において実施されました。対象は小学校、中学校、義務教育学校の教員であり、合計1,090名からの回答を得ました。調査方法はGoogleフォームを用いたもので、あらかじめ設定された4つの選択肢に加え、「分からない」という選択肢や自由記述欄も設けられました。
主な調査結果
調査結果では、調べ学習においてブラウザを活用する教員が71.5%(779名)と多かったのに対し、ブラウザAI要約を推奨している教員はわずか10.1%(85名)に留まり、84.3%(657名)の教員は推奨しないと回答しました。このように、教員の意識と実態には大きな乖離が見られました。
特筆すべきは、児童生徒が教師の指示なしにブラウザAI要約を自主的に使用している率が38.5%(300名)に達した点です。特に中学校においては51.3%が自主利用していると回答し、教育現場での生成AIの影響力が高まっていることを示唆しています。
また、児童が要約内容をそのまま用いるケースも38.6%(301名)に達しており、これは情報の吟味や整理が行われていない可能性を示す懸念材料です。対話型生成AIに関しては、推奨する教員がわずか8.7%(69名)に過ぎず、およそ88.6%(690名)は推奨しないと答えています。これは生成AIの教育的価値に対する疑念を反映しています。
課題と考察
調査からは、教員の多くが生成AIを「推奨しない」とする一方で、現場では“シャドー利用”が進んでいる実態が判明しました。この“シャドー利用”とは、教師の指導外で生徒が生成AIを使用することを指し、方針と実態の間に大きなずれが生じています。ブラウザAI要約が検索結果の上部に自動で表示されるため、生徒たちは「検索→AI要約の丸写し」という行動を取りがちです。このプロセスが省略されることは、情報を比較・吟味する能力の低下につながるリスクを孕んでいます。
特に中学校では、自主性の向上や提出物へのプレッシャーが相まって、無批判な情報受容が「浅い学び」につながる危険性が高まっています。
今後への提案
研究チームは、「深い学び」を促進するために次の3つの具体策を提案しています:
1. 生成AIが要約した情報の一次情報源へたどる過程を記録する。
2. 参照・引用した内容や観点を提出物に含める。
3. AIの出力を“結論”ではなく“参考の一つ”として扱う姿勢を育成する。
この調査の詳細は、2025年12月27日に発行される『月刊先端教育』2026年2月号に掲載されます。教育現場や政策に関わる皆さんにとって、AIと学びの未来を考える上での貴重な資料となることが期待されます。